大判例

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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)2716号 判決

控訴人 株式会社ダヴォス

右代表者代表取締役 斉藤幸男

控訴人 久光興業株式会社

右代表者代表取締役 大野政明

右両名訴訟代理人弁護士 牧野雄作

被控訴人 株式会社大林組

右代表者代表取締役 岡田正

右訴訟代理人弁護士 柏木薫

同 清塚勝久

同 山下清兵衛

同 池田昭

同 小川憲久

同 松浦康治

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人ら

1  原判決中、控訴人ら敗訴の部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨。

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次に付加し、改めるもののほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決三枚目表一〇行目の「ものである」を「ものを右消費貸借の目的としたものである。」に、同四枚目表七行目の「三五〇〇万円」を「同但書記載の三五〇〇万円」に、同末行の「別紙」を「その所有の別紙」に、同五枚目裏六行目の「左記」を「梅田合名により、左記各債権者に対し、次の」に、同七行目の「設定されている」を「設定され、(一)の根抵当権については昭和五二年一二月三日、(二)の根抵当権については昭和五三年五月九日の受付をもってそれぞれその設定登記がされている」にそれぞれ改め、同六枚目表六行目から七行目までの全部を削除し、同八行目の「5」を「4」に、同九行目の「梅田合名」から同一〇行目の「本件建物」までを「梅田合名との間で、昭和五四年三月三一日、本件建物について次の賃貸借契約を締結し、同賃借権」にそれぞれ改める。

二  同六枚目裏六行目の次に、次のとおり加える。

5 被控訴人は、昭和五四年一一月二九日、前記2の(四)の抵当権に基づき、本件土地建物について東京地方裁判所に任意競売を申し立て(同裁判所昭和五四年(ケ)第一二二〇号)、同日、競売手続開始決定がなされた。被控訴人の有する右2の(一)ないし(四)の抵当権の被担保債権の元本の残額は合計七億三四〇〇万円である。

6 株式会社第一相互銀行及び株式会社平和相互銀行は、右任意競売事件において、前記3の各根抵当権の被担保債権の確定した元本及び損害金について債権の届出をしたが、右被担保債権額はいずれも各根抵当権の極度額を超えている。

三  同六枚目裏七行目の「6」を「7」に、同行目の「右短期賃借権」を「前記短期賃借権」に改め、同九行目の次に次のとおり加える。

(一)  本件土地建物の昭和五六年五月一日現在の評価額は合計九億九七〇〇万円であるが、本件建物については、第一順位である前記3の(一)の株式会社第一相互銀行の根抵当権の設定登記の日(昭和五二年一二月三日)前から、その賃借部分の引渡を受けて賃借している賃借人で、競落人にその賃借権をもって対抗し得る次の八名の賃借人がいるから、その賃借権の価額合計五六〇〇万円を控除した九億四一〇〇万円が本件土地建物の担保価値というべきである。したがって、被控訴人としては、本件土地建物につき、前記各抵当権を実行すれば、右九億四一〇〇万円から先順位の根抵当権の被担保債権額五億九〇〇〇万円を控除した残額三億五一〇〇万円について配当を受け得る立場にあり、本件土地建物は、右先順位の根抵当権及び被控訴人の抵当権について共同担保の目的となっており、同時に競売手続に付されているので、競売代金は同時に配当されることとなるが、被控訴人の抵当権に優先する根抵当権の被担保債権五億九〇〇〇万円については本件土地と本件建物はその価額に応じて負担を分かつこととなるから、被控訴人は本件建物の競売代金からも配当を得ることができる。

賃借人

階数

賃借面積

月額賃料

敷金

1

睦美産業株式会社

一〇・八坪

一〇万八〇〇〇円

一〇八万円

2

久保田保

九・三坪

八万三七〇〇円

四八万円

3

北産業株式会社

八・八坪

五万八九六〇円

八〇万円

4

東京ポリマー協同組合

一〇・五坪

八万四〇〇〇円

五〇万円

5

伊藤製油株式会社

一八・一坪

一三万五七五〇円

一〇〇万円

6

理研炭素工業株式会社

八・八坪

五万九四八八円

八〇万円

7

三段崎俊吾

一九・三坪

不払

不明

8

清水興産株式会社

五・〇坪

三万二五〇〇円

五〇万円

四  同六枚目裏一〇行目の「(一)本件短期賃貸借は」を「(二)本件短期賃貸借は、本件建物全体に及ぶものであるのみならず」に、同行目の「抵額」を「低額」に、同七枚目表三行目の「(二)」を「(三)」に、同八行目の「(三)」を「(四)」に、同裏六行目の「7」を「8」にそれぞれ改める。

五  同八枚目表二行目から同一〇枚目表末行までを次のとおり改める。

1  請求の原因1の事実は否認する。被控訴人は、梅田総業、湘南ホスピテルとともに共同で会員制医療システムを創設し、経営することを計画し、被控訴人主張の七億七〇〇〇万円は、そのための出資金である。

2  同2の事実は不知。

3  同3、4の事実は認める。

4  同5の事実中、その主張のような債権があることは否認する。

5  同6の事実は認める。

6  同7のうち、本件建物について、被控訴人主張のとおり、第一順位の株式会社第一相互銀行の根抵当権の設定登記の日である昭和五二年一二月三日前にその賃借部分の引渡を受けた賃借人が存し、その賃借権の内容(ただし、東京ポリマー協同組合及び三段崎俊吾の賃料及び敷金を除く。)が被控訴人の主張のとおりであることは認めるが、その余は争う。

本件建物の昭和五三年一二月三日前から存する賃借人としては、他に一階の九・三坪を賃借している「シャンティ」こと株式会社ニュージャパン(賃料は不明、敷金は一五〇〇万円)及び四階の三・四坪を賃借している松島事務所(賃料は、三段崎俊吾と併せて月額一一万七五二〇円、敷金も同人と併せて二五〇〇万円)がある。東京ポリマー協同組合の賃料は月額七万五六〇〇円、敷金は三五〇万円である。

控訴人ダヴォスが実際に引渡を受けて占有しているのは本件建物の地階及び屋上階のうち各二室であり、右占有部分について三・三平方メートル当たり月額三〇〇〇円の割合で賃料を支払っている。本件建物は、賃貸用の建物であり、現在も約一〇名の賃借人が入居していて、競売されても、競落人は賃借人からの賃料収入をもって満足せざるを得ない建物であるから、控訴人の本件短期賃借権が設定されたことによって、本件建物の価額が特段低落するようなことはないというべきである。

7  同8の事実は認める。

第三証拠《省略》

理由

一  《証拠省略》によれば、請求の原因1、2の事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

したがって、被控訴人は、梅田総業に対し元本残額合計六億六五〇〇万円の、湘南ホスピテルに対し元本残額六九〇〇万円の各貸金債権を有するとともに、本件土地建物について被控訴人主張のような各抵当権を有することが明らかである。

二  請求の原因3、4、6及び8の事実は当事者間に争いがなく、被控訴人が、その主張のとおり、昭和五四年一一月二九日、本件土地建物について任意競売を申し立て、同日競売手続開始決定がなされたことは、控訴人らにおいて明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

三  そこで、本件短期賃貸借は、株式会社第一相互銀行の抵当権の登記後に登記されたものであるが、民法六〇二条に定めた期間を超えないものであるから、民法三九五条の規定により抵当権者である被控訴人に対抗できるものであるところ、それが被控訴人に損害を及ぼすものであるか否かについて検討する。

1  《証拠省略》によれば、昭和五六年五月一日現在、本件土地の更地価額は九億八五五〇万円、原価法による本件建物自体の価額は一一五〇万円と認められるが、本件土地と本件建物は、第一順位の株式会社第一相互銀行の根抵当権の設定当時、いずれも梅田合名の所有に属したものであり、抵当権が実行されて競落された場合、本件建物については法定地上権が成立する関係にあるから、本件建物の評価に当たっては、借地権価額を考慮する必要がある。そして、《証拠省略》によれば、本件建物についての借地権価額は、本件土地の更地価額九億八五五〇万円の九〇パーセントと認めるのが相当であるから八億八六九五万円であり、同借地権価額を加味した本件建物の評価額は結局八億九八四五万円となる。

2  本件建物については、株式会社第一相互銀行の根抵当権の設定登記の昭和五二年一二月三日前からの賃借人として被控訴人主張の八名が存することは当事者間に争いがない。

《証拠判断省略》

右八名の有する賃借権の内容が、東京ポリマー協同組合及び三段崎俊吾の賃料及び敷金の点を除いて、被控訴人主張のとおりであることは当事者間に争いがない。そして、《証拠省略》によれば、右協同組合の賃料は月額七万五六〇〇円(他に共益費が月額八四〇〇円であり、《証拠省略》中に賃料月額八万四〇〇〇円とあるのは右共益費を含む額と認められる。)。敷金は五〇万円であること、《証拠省略》によれば、三段崎俊吾は、その約定賃料額は不明であるが、梅田合名に対して債権二五〇〇万円を有し、これを賃料と相殺したものであり、残額は敷金に振り替えたと主張しているものであることが認められる。

そして、右八名が、いずれも本件建物の第一順位の株式会社第一相互銀行の根抵当権の設定登記の日前にその賃借部分の引渡を受けていることは当事者間に争いがなく、右八名の賃借人はいずれも本件建物の競落人にその賃借権を対抗し得るものであるから、本件建物の担保価値の評価に当たっては、それらの者の賃借権の価額を控除する必要があるが、右賃借権の価額は、《証拠省略》によって合計五六〇〇万円と認めるのが相当である(《証拠省略》が、右価額算出の過程において、東京ポリマー協同組合の賃料月額を八万四〇〇〇円、三段崎俊吾の賃借面積を一三・七坪とした上、敷金を交付しているとは認められない三段崎俊吾につき他の者の敷金の平均単価により一〇五万円の敷金が存するものとしていることは相当でないが、多角的、総合的な手法によって導かれた右五六〇〇万円という評価そのものは妥当と認められる。)。したがって、右賃借権の価額を控除した本件建物の価額は八億四二四五万円となる。

3  《証拠判断省略》

4  したがって、本件建物の担保価値は八億四二四五万円というべきであるが、本件建物は、本件土地とともに先順位の根抵当権及び被控訴人の抵当権につき共同担保となっており、先順位の各根抵当権の被担保債権五億九〇〇〇万円は本件土地とともにその価額に応じて負担を分かつことになる(民法三九二条)から、被控訴人は、本件建物の右担保価値八億四二四五万円に本件土地の底地価額九八五五万円(更地価額九億八五五〇万円の一〇パーセント)を加えた合計九億四一〇〇万円から競売手続費用及び右先順位根抵当権の被担保債権額五億九〇〇〇万円を控除した残額(競売手続費用を考慮しなかった場合三億五一〇〇万円)につき、その抵当権の被担保債権の弁済を受け得ることとなるが、なお右債権の全額の弁済を受けるに至らないことが明らかである。

5  そして、本件短期賃貸借の賃料は、一平方メートル当たり月額一〇〇円であって、《証拠省略》及び前記本件建物の賃借人が約定している賃料額(一平方メートル当たりの賃料が最も低廉である清水興産株式会社でも月額一九六七円となる。)に照らして明らかなように極めて低廉であり、その賃貸借の対象は本件建物全体に及び、更に賃借権の譲渡・転貸が自由である旨の特約が存し、賃貸借の内容が賃貸人にとって著しく不利であることからすれば、本件短期賃貸借の存在は、本件建物の価額を更に低下させるものであり、抵当権者である被控訴人に損害を及ぼすものであることが明らかである。

四  よって、被控訴人の本訴請求のうち、控訴人らに対して本件短期賃貸借契約の解除を求める請求は、理由があるから認容し、賃借権設定登記の抹消手続請求は、控訴人ダヴォスに対し、右解除を命ずる判決の確定を条件として本件短期賃貸借に関する賃借権設定登記の抹消手続を求める限度で理由があるからこれを認容すべきであり、これと同趣旨の原判決は相当であって、控訴人らの本件控訴は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 香川保一 裁判官 菊池信男 柴田保幸)

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